<4>なぜあの呉服屋は100年も続く事が出来ているのか?「非常時と不況期の持続的経営戦略」

8回シリーズでコラムを書いています。

<4>なぜあの呉服屋は100年も続く事が出来ているのか?「非常時と不況期の持続的経営戦略」

 

<個別対応せよ!>

二つ目のノウハウは「個別対応」です。

100年企業は好景気や市場成長期には「大衆」に売ります。

そして不景気や衰退期には「お得意様の個別」に売る事に事業をシフトします。

 

先に<物を売らずに価値を売れ>でも書きましたが、市場の成長期や好景気には人はわれ先に商品やサービスを欲しがるわけですから、ターゲットは大衆全般と言う事が言えます。
ところが市場の衰退や不況が経済を直撃すると、真っ先にお店を離れてしまうのはこの「大衆」でもあるわけです。

 

しかし、そんな市場の衰退や不況下でもお店を離れないのがいわゆる「お得意様」です。
多くの100年企業はこの「お得意様」に支えられているのが分かります。
事実コロナの非常事態の中、僕のコンサルティング先様の呉服店の店頭での一見客の売り上げは落ちていますが、個別に対応したお得意様の売り上げはほぼ変わらないと言う報告が今月も入っています。

 

そしてこの「お得意様への個別対応」にはもう一つの見え方があります。
市場の成長期や好景気は商品を一つに絞って「専門店化」する事が効率的で良いとして来ました。
いわゆる大衆に対して同じ商品を売ると言う昭和の成功方程式ですね。
しかし、実はこの事業モデルだけでは決して企業は長くは続かない事を100年企業は知っています。

 

市場の成長期や好景気はそれでも良いのですが、市場が衰退したり不況になったりすると大衆はお店から離れてお得意様だけが残ります。
ただ残されたお得意様に今まで通り単一の商品を売り続けていては経営が持ちません。
そこで、お得意様に提案出来る第二第三の新たな商品やサービスを開発するのです。
老舗が倒産したりすることがありますが、多くはその時の後継者が「良いものを作れば潰れない」と言う先代からの教えを、「単一商品だけを作り続けろ」と言う教えと勘違いししてしまったからです。

 

100年続く企業は好景気には大衆に向けて良い単一商品を作ります。
そして不景気にはお得意様個別の要望に合わせて多様な商品を提供するよう事業戦略をシフトさせるのです。
呉服事業は斜陽産業ですからまさにこれを実践しています。
実は僕のコンサルティング先様の呉服店の取り扱いは「きもの」だけではないのです。
きもの販売の小売業以外にもサービス業の貸衣装もやっていますし写真館までもやっています。
今後は健康サービスや美容サービスへの取り組みも始めています。
お得意様が求める多様な物やサービスで素晴らしいものなら何でも全国から集めて提供する姿勢を持っているのです。

 

現在の日本でも人口減少の背景から「リカーリング」と言う言葉が注目されてます。
カーリングとは繰り返し企業を利用していただくビジネスの形の事を言います。
いわゆる人口増大を背景にした一見の大衆商売から、特定のお得意様が何度も企業の多様な商品やサービスをリピート利用してもらえる商売へ切り替える動きが加速しているのです。
実はこの「リカーリング」のルーツこそ、100年企業や呉服店なのです。

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