<5>なぜあの呉服屋は100年も続く事が出来ているのか?「非常時と不況期の持続的経営戦略」

8回シリーズでコラムを書いています。

 

<5>なぜあの呉服屋は100年も続く事が出来ているのか?「非常時と不況期の持続的経営戦略」

 

<在庫を持たない>
流通小売業は好景気や市場成長期には商品在庫を大量に持ちます。
しかし100年企業の流通小売業は不景気や衰退期には出来る限り在庫を持たない事業モデルにシフトします。

 

何度も書いていますが市場の成長期や好景気に人はわれ先に商品に群がるわけですから、そんな時には流通小売業は商品在庫を持った方がいい事は誰でも分かります。
しかし大切な事は、市場の成長や好景気は長くは続くはずもないですし、今回の様な非常事態も起こるリスクもあると言う事です。
長く会社を続けて行けば、必ずその在庫が足かせとなって倒産の危機を迎えてしまう時期が来るのです。
ですから持続的経営のためには商品在庫を持つビジネスと同時に、もう片方で在庫を持たない180度違うタイプのビジネスも準備しておかなければならないのです。

 

小売業にとって商品在庫を持たない180度違うタイプのビジネスとは、例えば一番身近なところで言うとお客様にサービスを売る「サービス業」です。
僕のコンサルティング先様の呉服店では実は着物販売とは別に、いち早く写真スタジオと言うサービス業に参入していただいています。
また、商品を「レンタル」するビジネスは在庫を償却してしまえば100%の粗利を生み出すのである意味在庫が無いビジネスとも言えます。
こちらも呉服店には着物販売とは別に、以前から衣装レンタルビジネスに参入していただいています。
これらのサービス業を積極的に複合させてきた呉服店は地域一番の地位をゆるぎないものにしています。

 

さらに在庫を持つビジネスと180度違うタイプのビジネスで最近になって最も注目されているのが「紹介業」です。
この「紹介業」は商品の紹介や人の紹介などで手数料収益を上げると言うビジネスです。
紹介がビジネスですから、当然商品在庫は無いわけです。

 

僕のコンサルティング先様の呉服店では店頭に在庫を並べてきもの販売する営業もやっていますが、同時に毎月商品販売を目的としたイベントを開催しています。
呉服店はそのイベントに富裕層のお客様を集める事がとても得意なのです。
ポイントは実はそこのイベント会場に並ぶ商品は呉服店の在庫ではない事です。
全て富裕層のお客様に紹介して欲しいメーカーや問屋の在庫商品の出品なのです。

 

そのイベントで売れた販売品に対してのみ仕入れを行う消化仕入れなので、実施は呉服店が手数料的な利益を得る構造のビジネスモデルを業界全体で作り上げてしまったのです。
市場の成長期や好景気には流通小売業が在庫リスクを持ちますが、市場の衰退期や不況期やさらに今回の様な非常時には、呉服店がお客様の管理に特化し、在庫リスクは問屋やメーカーが持ち、流通全体でリスク分散を図ると言う優れた流通構造になっているのです。
それは呉服業界の長い歴史の中で生まれた持続的成長企業を作るための呉服業界の優れたリスク分散流通の構造なのです。

 

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